Presented my research in 19th ISA World Congress of Sociology in Toronto
報告をしました
7月16–21日にかけて、カナダ・トロントで開催される第19回国際社会学会(19th International Sociological Association (ISA) World Congress of Sociology in Toronto)に参加し、研究報告をしました。内容は、SSM調査の職歴データを使用し、転職経験がその後の雇用の不安定性(離職および失職確率)に与える影響、および、その影響が長期的にみてどのように変化してきたのかに関する分析です。分析の結果、(1) 男性に関しては転職経験はその後の雇用の安定性を低める(離職および失職確率を高める)こと、さらにその関係は1960年以降安定的に推移していること、(2) 女性に関しては転職経験がその後の雇用の安定性を低めるという関係は1980年代半ばころから現れるようになったこと、などを明らかにしました。報告の内容はこちらから。
報告はRC28のポスターセッション(Cutting-Edge Research in Social Stratification)にて行いました。加えて、本報告にあたり、RC28のBoardよりトラベルアワード(”Aage B. Sørensen Award”)をいただきました。他にも名前を冠したアワードはいくつかあって、たまたま自分の論文がSørensenの論文を引用していたからこのアワードに当たったのだと思いますが、Sørensenの研究はとても尊敬しているので思わぬサプライズでとても嬉しかったです。報告に際してコメントくださったみなさまと、指導教員の白波瀬先生に感謝申し上げます。ありがとうございました。
参加してみての所感
実はフォーマルな国際学会で報告するのはこれがはじめてだったのですが、とても楽しかったです。ISAにはResearch Committeeといってテーマごとにグループが分かれているのですが、自分が主として参加したRC28 (Social Stratification)は総じて水準が高く、聞いていてとても楽しかったです。自分の報告についても、専門が近い人から質問やコメントをもらえるので、非常に勉強になりました。あと、数人ですが他の国からの参加者で知り合いもできたのでそれも嬉しかったです。
ありきたりではあるのですが、専門や関心を共有できる場所で報告する、あるいはそういう場所をみつける、というのが大事だなと思いました。今回自分にとってRC28はそういう場所になるなと強く感じたので、今後も積極的に参加したいと思います。
4年前にはISAが横浜で開催されて、そのときは修士課程の1年だったのでボランティアでお手伝いをしたのですが(そのときの自分の写真が会場で配布されていた日本社会学会の広報広告に使われていて笑いました)、今回はそのときと比べるとずっと知識が増えたのと、ほんのちょっとだけ英語ができるようになったので、自分の成長を感じられてよかったです。今後ますます研究と、あと英語をがんばろうと思いました。
あとこれは別の話ですが、報告者には院生も少なくなかったので、日本の院生ももっと参加していいと思いました(日本の院生はかなり少なかったです)。少なくとも自分が研究会などで普段会っている院生は、研究の水準でみればISAで報告している他の国の院生と比べて決して劣っているわけではないと思うので、もったいないと感じました。ちょっと時期と場所の点でかなりお金がかかるので、資金を工面するのが難しいのがネックなのかもしれません。この点、学会や教員、研究室や研究科が資金面での援助を検討してもよいのではないかと思いました。
面白かった報告
一応聞いた報告についてはほぼすべてメモを取っていたのですが、そのなかで、自分がとくに面白いと思ったものいくつかについて記しておきます。月曜から土曜の朝までかなりたくさんの報告を聞いたので、ごく一部だけ書いています。ただし自分の聞き取りが間違っている可能性があるので、内容については話半分で見てください。
Seeking Asylum in Germany: How Social Stratification Affects the Length and Outcomes of Asylum Processes
2016–2017年のドイツを対象に、亡命難民の受け入れ/拒否の決定に際して、当該難民の社会経済的地位が決定の結果に対していかなる影響を及ぼしているのかを検討している。データはIAB-BAMF-SOEP調査という難民に関する調査をドイツのSocio-Economic Panel Surveyの情報と接合したデータ。決定がなされたという条件のもとでRecognition/Rejectionか否かに関するプロビットモデルを、まだ決まっていないというセレクションを(生存分析で)加味して分析するサンプルセレクションモデルを用いている。これはたぶん、Gangl, Markus. 2004. “Welfare States and the Scar Effects of Unemployment: A Comparative Analysis of the United States and West Germany.” American Journal of Sociology 109(6):1319–64.と同じ方法。分析の結果、難民の手続きにおいては、経済的に豊かな者、すでにドイツに知り合いがいる者はより受け入れられやすいことが明らかになった。以上の結果から、現行法は必ずしも個人の性質の影響(社会的経済的不平等)を排除できていないという含意が得られる。
Educational Selectivity and Immigrants’ Labor Market Performance in Germany
ヨーロッパへの移民は(1) 出身国のなかで相対的に高い学歴を持つ者からなるのか、それとも低い学歴を持つ者が移動してきているのかどうか、(2) その関係は到達先の国によってどのように異なるのか、を検討している。European Social Surveyと各国のセンサスを使って、性別×年齢階級ごとに、相対的な学歴レベルを表す指標(同じ大卒だとしても、性別×年齢階級のグループにおいて大卒比率が低ければ高い値をとる)を作って分析した結果、基本的に西ヨーロッパへの移民は出身国で相対的に高い学歴を持つ者に偏っているということが明らかになった。ただし、その関係は時代によっても国によっても異なっていて、今後さらなる分析が必要と述べられていた。どのようにやっているのか詳細はわからなかったが、移民の文脈で出身国での相対的な学歴を計算するというところが新しい。
The Effect of Birth Weight on Cognitive Performance: Is There a Social Gradient? Is There Compensation?
出生時点で低体重であることは学校でのパフォーマンスと関係するのか、またその関係が出身過程の社会経済的資源によっていかに異なっているのかを検討している。Chinese Family Panel Studyの第1波データを用い、地域レベルの固定効果を統制したうえで、Augmented Inverse Propensity Weightingという分析方法を用いて低体重の因果効果を測定している。分析の結果、出生時低体重は学校での学業成績を低めること、さらに国語の成績に関しては、出身家庭が豊かである(親の学歴が高いなど)と、低体重と学業成績の関係は弱まる傾向にあることが確認された。すなわち、出身家庭の豊かさは低体重のような初期の不利を解消する(逆に言えば、貧しい家庭においては初期の不利を解消するのがむずかしい)という補償効果を持っているということを意味する。
Patterns of Same-Sex Partner Choice in Germany
同性カップルは異性カップルと比較して同類婚の傾向が強いのか弱いのか、またその関係は時代によっていかに変化しているのかを検討している。1996–2013年のドイツのセンサスの個票データから同性カップルを特定し、年齢の同類婚と学歴の同類婚傾向について分析。結果、同性カップルは年齢の同類婚傾向が弱く(異性カップルでは年齢差の平均は3歳ちょっとだが、同性カップルでは5歳ちょっと)、学歴の同類婚傾向も弱い。学歴の同類婚傾向は近年弱まっているが、高学歴層では強まっている。ただしこの関係は同性カップルにも異性カップルにも共通した傾向であった。
The Role of Information Biases for Higher Education Enrollments Evidence from a Randomized Field Experiment.
なぜ社会経済的に低い家庭の出身者が大学進学しにくいのか。これに対して、彼(女)らが社会経済的に高い家庭の出身者と比較して大学に関する情報を十分に得られず、その効用や卒業の実現可能性を十分に認識していないため、大学進学を避けるのだ、という説がある。この研究では、ランダム割付によって大学に関する情報提供を行い、情報提供が大学進学確率を高めるかどうかを分析することで、この説を検証する。使用するデータはドイツの長期介入調査(”Best Up”)。分析の結果、大学に行くことで得られるリターンや、奨学金?の獲得方法について教えることで、社会経済的に低い家庭の出身者のうち、すでに大学進学の意思を持っていた子どもについては、大学進学確率を実際に上昇させることがわかった。一方で、大学進学の意思を持っていなかった子どもについては短期的にのみ大学進学の意思は上昇し、大学進学確率に対しては影響を与えないことがわかった。
Unfolding the Mechanisms of Compensatory Advantage: An Instrumental Variable Approach
たとえば、子どもが悪い成績をとったときに、社会経済的地位の高い家庭の親はその成績を上げようとして介入するけれど、低い家庭の親は介入しないという関係がある場合、世代間の地位の再生産につながる。このように社会経済的地位の高い者が不利を解消するような行為を行いやすいということを指してCompensatory Advantageといい、不平等の生成過程を説明するための重要なメカニズムと指摘されている。本研究ではこのメカニズムがみられるかどうかを検討する。具体的には、中等教育への進学時に悪い成績をとった場合に親が介入するかどうかが親の社会経済的背景によって異なるかどうかを検討した。フランスでは中等教育の入学時点で一斉にテストを実施するらしく、その成績に対して出生月を操作変数として、成績のよしあしが親の介入に与える影響を分析する。分析の結果、親の教育水準が高いと、より子どもに対する介入を強めるようになり、成績が悪くてもその後の教育への期待を低めないことが示され、Compensatory Advantageの存在が示唆された。
Multigenerational Attainment and the Mortality of Silent Generation Women
自分自身の社会経済的地位が高いと寿命が長いことはよく知られているが、それだけでなく、親の社会的経済的地位が高いことや子どもの社会経済的地位が高いこともまた、寿命を延ばす効果があることが知られている。そこで本研究ではNLS-MW(1923–37出生コーホートの女性)を用いて、本人、本人の親、本人の子どもの社会経済的地位が(本人の)寿命に与える影響について、生存分析を用いて検討した。3世代の社会経済的地位を同時に考慮した結果、子どもの教育水準が高いと、本人の寿命が長くなる一方で、本人と親の教育水準の独自の効果は見られなかった。この結果から、従来から見られていた高い教育水準が寿命を延ばすという効果はその子どもからの援助を受けられるということによって生じているという可能性があり、多世代を考慮した分析の必要性が示唆される。
“to Him That Hath Shall be Given”: The Intergenerational Transmission of Wealth through the Life Course
世代間での社会的不平等の伝達過程を、資産相続に着目して検討する。SHARE(Survey of Health, Ageing and Retirement in Europe)データからヨーロッパ16か国のデータを用いて、親からの資産相続およびその年齢、子ども(など)への資産の受け渡しおよびその年齢、および資産相続と社会経済的地位との関係について分析。分析の結果、親からの資産相続および子ども(など)への資産の受け渡しは50歳代ころに起こり、社会経済的地位が高いほど資産相続確率も、資産受け渡し確率も高いことがわかった。「持てる者がより受け取り、より受け渡す」という関係があるといえる。
Intergenerational Wealth Inequality
親の資産保有が子どもの諸社会経済的地位に対して与える影響を分析。PSIDの1968/2015年データを使用した分析の結果、親の教育水準を統制したうえで、親の資産は子どもの学歴、職業、所得、資産に影響をおよぼしていることが明らかになった。親の資産に関する情報は通常の社会調査データでは正確に取ることができないため、このように世代をまたいだ調査があってはじめてできるようになる。50年続くパネル調査であるPSIDの意義を改めて思い知った。
Are Top Shares a Good Measure of Inequality?
Sociological Methods and Researchで出版された論文についての報告。近年の所得・資産格差の分析で用いられるようになったトップ10%の所得シェアや、トップ10%の所得シェアとボトム10%の所得シェアの比などといった指標は、不平等指標として望ましい性質を満たしており、また他の不平等指標(ジニ係数など)とも数学的に単純な関係で結びついている。さらにわかりやすさという点でも優れた性質を持っている。今度論文のほうも読みたい。
The Financial Wage Premium in Postindustrial Countries: A Comparative Distributional Analysis
金融業(Financial sector)は他の産業と比較して所得が高く、また産業内の上位層の所得も高いことを回帰分析およびRIF分位点回帰分析を用いて実証。データはLuxenburg Income Studyより12か国のデータを使用。12か国はどの国も金融業の所得水準および上位層の所得水準は相対的に高いが、とくにアメリカなどでその差は顕著であった(国レベルの変数をつかって2変量関係を見ていたが、定義がよくわからなかった)。
Social and Genetic Influences of Educational Attainment and Their Variation According to Social Background.
遺伝子要因が教育達成に与える影響は国によって異なるかという、いわゆる遺伝子と環境の相互作用についての分析。全然詳しくないけど、分析方法としては古典的な一卵性双生児と二卵性双生児の比較を行って遺伝による部分を特定する方法を使っている(ACE-variance decomposition models)。データはドイツのTwinLifeデータとスウェーデンのRegisterデータ。分析の結果、遺伝が学業成績および教育達成を説明する度合いはドイツよりもスウェーデンのほうが低いことがわかった。今後はアメリカを加えて比較分析をするようだ。
Rich Country, Poor Chances? How Institutions and Resources Shape School-to-Work Transitions of Disadvantaged Students in Germany
ドイツに新たにできた特別教育学校の卒業生が、従来からある教育水準の低い学校の卒業生と比べて良い仕事を得られているのかについて分析(ドイツの教育事情はよくわからないので曖昧)。データはNational Educational Panel Study、分析手法は傾向スコアマッチング。卒業後5年間の職歴を対象とした分析の結果、特別教育学校の卒業生は従来の教育水準の低い学校の卒業生と比較して就業もせず学校にも行っていない(NEET)状態になる確率が高く、新たにできた学校は社会的包摂を進めるどころか社会的排除につながっているかもしれない、という結果を得た。
Class Origin, Education, and Class Destination: Analyzing the O_E_D Triangle in Japan
教育水準が高いほど、親の出身階層と本人の到達階層の関係との正の相関は弱くなるという関係がヨーロッパの多くの国で観察されている。しかしこれらの分析は教育達成へのセレクションを考慮しておらず、教育達成それ自体が出身階層と到達階層の関係を変える因果的な効果を持っているかは明らかでない。そこで本研究では教育達成へのセレクションを考慮する因果分析を用いて教育達成の因果的な調整効果(modification effect)を明らかにする。用いるデータは1995–2015年のSSM調査。分析の結果、教育達成へのセレクションを考慮すると、学歴が高いほど親の出身階層と本人の到達階層の正の相関は強くなることがわかった。つまり、従来の「教育水準が高いほど、親の出身階層と本人の到達階層の関係との正の相関は弱くなる」という関係は教育達成へのセレクションによって生じている可能性がある(たぶん)。