Lambert et al. 2012. “Social Stratification: Trends and Processes.” 読書記録

Paul Lambertほか、イギリスの階層研究者によって書かれた編著。非常に一般的なタイトルなのだけれど、階層研究の伝統的なテーマを扱っているというよりはむしろ、イギリスを中心とした2012年時点の階層研究のトレンドの一端をうかがうことができる。

https://www.amazon.co.jp/Social-Stratification-Processes-Roxanne-Connelly/dp/1409430960

本書は4つのパートからなり、個人的に興味があったのはPart 2–3なので、そこは(流し読みだけど)すべて読み、Part 1, 4は飛ばし読みしたりさらっとだけ読んだ。

Part 1: Measuring Social Stratification

階層を捉える際には、職業をもとにして作成した階級カテゴリあるいは地位指標を作成する。本パートではこうした階級カテゴリあるいは地位指標の作成に関する最近の動向を紹介している。Chapter 2 (Lambert and Bihagen)では、職業から作成される社会的なポジションにはEGPISEIなど代表的な指標はあるもののきわめて多くの種類が存在し、しかも研究ごとに別々の指標が使われていることを指摘する。これらの指標の構築はそれぞれ固有の文脈による”技術(art)”によってなされており、分野外の者からみてアクセス可能な形式になっておらず、指標の使用にさいして混乱を招く原因となっている。そこで筆者らは(1) 同一のトピックに関する先行研究で用いられた操作化の方法をいつでも特定可能・再現可能にすべきである、(2) 指標の操作化に用いた分析のスクリプトをオンラインデポジットなどの方法で利用可能にすべきである、(3) 経験的研究の質を高めるために、(同じ研究で)複数の指標を使用してsensitivity analysisを行うべきである1)もちろん異なる指標は異なる理論的な背景のもとに作成されている。しかし、作成された指標が必ずしも理論的な想定と合致したものを測定できておらず、現実問題としてさまざまな要因を含みこんだ指標となってしまっている(もちろんそのことが欠点となることも、利点となることもある)。それゆえ、異なる複数の指標のパフォーマンスの比較分析を行ったりするでその性能を評価していくことが必要であるということである。、という3つの提案をしている。Chapter 3–4は、CAMSIS(”CAMbridge Social Interaction and Stratification scale)とよばれる職業間の社会的距離を測定する指標を作成し、既存の指標と比べた特徴を紹介している。Chapter 3 (de Luca et al.)はイタリア、Chapter 4 (Bessudnov)はロシアでそれぞれこれを作成している。

Part 2: Social Stratification Over the Life Course

Part 2では、ライフコース的な視点を加えて階層化の過程を捉える分析を行った章が集められている。Chapter 5 (Hillmart)German Life History Studyを中心的に使用して、職業的地位(および所得)が年齢を追うごとにどのように変化していくのかを、コーホートごとに比較し、さらにその軌跡が出身階層によっていかに異なるのかを検討している。分析の結果、職業的地位の階層差は年齢を追っても減少することはなく残り続ける(あるいはやや拡大する)ことが確認された。

Chapter 6 (Erola)は父親の職業階級と所得のどちらが主として子どもの職業階級に影響を与えるのか、また子どもが何歳のころの職業階級あるいは所得が最も強い影響力を持っているのかを、フィンランドのセンサスパネル2)5年ごとに同一個人がリンクされており、その親の職業および所得、きょうだいの職業および所得が(測定誤差なく)分かるという、北欧にありがちなとんでもなく質の高いデータ。を使って分析。分析の結果、親の階級と所得を同時に考慮した場合、子どもの職業的地位を決めるうえで決定的な影響を持っているのは階級であった。とりわけ子どもが0–4歳時点の階級の影響がほかの年齢時点とくらべて強いことがわかった。

Chapter 7 (Connelly)は出身背景、教育達成、および子ども時代のテストスコア(「認知的能力」の代理指標)が社会経済的地位に与える影響が年齢を追うごとに安定的か変化するのかについて分析。労働市場に参入したはじめは雇用主からは「認知的能力」を観察することができないので顕在的な学歴をもとに地位への配分がなされる。しかしその後高い地位を得るうえで「能力」が重要であるならば、学歴の影響力は年齢が高くなるごとに弱くなり、かわって(テストスコアによって測定される)「認知的能力」の影響力が強くなっていくだろう。しかし分析の結果はこれを支持せず、「認知的能力」の影響力は年齢が高くなっても一定している。社会経済的地位に対してもっとも強い影響力を有しているのは一貫して学歴であった。

Chapter 8 (Tampubolon and Savage)National Child Development StudyBritish Cohort Surveyのデータを使って、キャリアを通じた階級の軌跡のパターンを潜在クラス分析によって分類し、それぞれのクラスへの所属確率と出身階層との関連を検討。どこかの年齢段階だけをとってきて「到達階級」を測定するような方法ではそこに至る軌跡を必ずしも反映できないため、個人の地位の変化の情報を考慮することが有用ではないかという示唆を得た。

Part 3: Demographic, Institutional and Socio-economic Changes

Part 3は人口学的・制度的・社会経済的な変化が階層化の過程といかに関係しているのかという関心にもとづく章が集められている。

Chapter 9–11ethnicityに関係する章。専門がやや遠く詳しくないのでさらっと。Chapter 9 (Penn)はアメリカにおいて熟練マニュアル職(Skilled work)へのWhite以外の参入を制限していた政策が撤廃されアファーマティブ・アクションがとられたのち、White以外のエスニシティ(Latino, Black, Asian)がどの程度それらの職業に参入したのかを、6つの大都市ごとに比較している。エスニシティごとに同化の程度は異なっているという知見を得た。Chapter 10 (Longhi et al.)はイギリスにおけるEthno-religious groupsの賃金における不利が職業間で生じているのか(職業への配分における不利)、職業内で生じているのかを要因分解(職業内での差別的待遇による不利)。分析の結果、職業間要因の寄与が比較的大きいことがわかった。Chapter 11 (Li)はイギリスとアメリカでエスニックマイノリティがどの程度賃金面で不利なのかを分析。男性内では、しばしばエスニックマイノリティのほうが学歴が高いにもかかわらず賃金が低いことが確認される。これは1990年、2000年でも同様。しかし女性内ではエスニックマイノリティはマジョリティ(White)とおなじくらいの賃金を得ている。これは要するに女性全体が賃金が低いことによって生じているものと思われる。そのほか。またおなじアジア系でも、アメリカと比べるとイギリスのほうがやや不利である。

Chapter 12 (Ralston)はスコットランドにおける居住地域と第1子出生の関連が、階層要因を統制してもなお見られるかどうかをCox比例ハザードモデルで分析。女性は学歴や職業的地位が低いほど第1子出生タイミングが早い。一方で男性ではこうした関連はみられない3)これはたぶん学歴や職業的地位の低い男性はパートナーを見つける確率が低いために子どもをもつ確率が低いという効果と、一方でパートナーをもっている場合には早く子どもをもつに至るという効果が相殺しているのだと思われる。。以上の階層要因を統制した結果、都市/地方くらいの荒い区分での地域要因の効果は見られなくなった。地域が出生に与える効果はあるかもしれないが、それはより適切な指標によって測定しなければ見えてこないだろう。

Chapter 13 (Schober)は第1子出生の1年前から3年後にかけて、女性がpaid workdomestic workにかける時間がいかに変化するか、またその変化の軌跡が女性自身の階層要因(学歴、職業、賃金、夫と比べたときの相対賃金)によっていかに異なるのかを検討する。データはBritish Household Panel Survey。分析の結果、出産1年前時点で大学卒、専門あるいは管理職の女性は、第1子出産2年後もpaid workに割く時間がより長い。その要因はこれらの女性がもともと労働時間が長かったこと、賃金が高いこと、性別役割分業意識が低いことなどによって媒介されている。さらに大学卒、専門あるいは管理職の女性は育児に際してフォーマルなケア(託児所、ベビージッター)を利用する確率が高い。これは主に大卒、専門あるいは管理職の女性は賃金が高くこれらを利用しやすいことによって媒介されている。

Chapter 14 (Saar and Unt)は旧社会主義圏の国において学歴が労働市場におけるリターンに対して与える影響を計測。とくに、各国の労働市場の状況および教育拡大の程度によって学歴のリターンがどのように異なるのかに注目して検討。分析の結果、高学歴比率4)人口に占める大卒比率かな?あんまりちゃんと定義が書いてなかった気がするのでわからないの高い国では大卒者は雇用を得たり専門管理職に就く確率は低下し、低スキル職に就く確率が上昇する。一方で低学歴(ISCED 0-2相当)の者も低スキル職さらには職を得られない(失業)確率も上昇する5)モデルでは労働市場における職業構造がどの程度高スキルであるか(指標化の方法不明)、および失業率がどの程度であるかという変数も同時に投入されているのでこれらを踏青したうえでの高学歴比率というのがいまいち何を意味しているのかわからないところがある。2変量でみても「高学歴比率が高い国ほど高学歴の者も低学歴の者もいい仕事を得られない」という関係はあるのだろうか?

Part 4: Political and Policy Responses to Stratification

省略。

Notes

Notes
1 もちろん異なる指標は異なる理論的な背景のもとに作成されている。しかし、作成された指標が必ずしも理論的な想定と合致したものを測定できておらず、現実問題としてさまざまな要因を含みこんだ指標となってしまっている(もちろんそのことが欠点となることも、利点となることもある)。それゆえ、異なる複数の指標のパフォーマンスの比較分析を行ったりするでその性能を評価していくことが必要であるということである。
2 5年ごとに同一個人がリンクされており、その親の職業および所得、きょうだいの職業および所得が(測定誤差なく)分かるという、北欧にありがちなとんでもなく質の高いデータ。
3 これはたぶん学歴や職業的地位の低い男性はパートナーを見つける確率が低いために子どもをもつ確率が低いという効果と、一方でパートナーをもっている場合には早く子どもをもつに至るという効果が相殺しているのだと思われる。
4 人口に占める大卒比率かな?あんまりちゃんと定義が書いてなかった気がするのでわからない
5 モデルでは労働市場における職業構造がどの程度高スキルであるか(指標化の方法不明)、および失業率がどの程度であるかという変数も同時に投入されているのでこれらを踏青したうえでの高学歴比率というのがいまいち何を意味しているのかわからないところがある。2変量でみても「高学歴比率が高い国ほど高学歴の者も低学歴の者もいい仕事を得られない」という関係はあるのだろうか?