2021-04– 学習院大学法学部「社会学演習」

Author

Ryota Mugiyama

Published

April 1, 2021

テーマ

社会的不平等に関する実証研究

開講

学習院大学法学部 前後期

授業概要

本演習の目的は、社会学の視点から、問いを設定し、仮説を立て、それに答えるために社会調査データを分析することを通じて、社会科学一般の基礎となる研究過程を体感し、かつそれを実行するためのスキルを習得することにある。社会学では、個人の行為を説明するにあたって、社会的な文脈の影響に着目する。なぜある人はお金持ちで、ある人は貧しいのか?なぜ大学に行く人と行かない人がいるのか?なぜ家事や育児にかける時間が男女で違うのか?こうした一見個人的な行為、あるいはその結果に対する説明を考え、その説明を検証するための具体的な方法を身につけることを目指す。   社会の実態を記述するために最も基本的な方法の一つが、社会調査データの分析である。本演習では、実際にこうした調査データを用い、統計ソフトを用いて分析する方法について学習する。先行研究をもとに問いを立て、論理的に仮説を導き、データを用いて仮説を検証するという一連の作業を通じて、実証的な研究を行うためのスキルを身につける。こうしたスキルは、直接研究には携わらないとしても、今後の仕事や生活で必ず役に立つだろう。

前期は実証研究に関する論文の書き方および関連領域に関するテキスト(教科書)購読、論文購読、RおよびRStudioという統計ソフトを用いたデータ分析方法の学習を並行して行う。

  • テキスト購読:テキストを読んだ上で事前に(1)当該章に関連して考えられる問い、(2)疑問点・質問を共有する。授業では共有された内容をもとに議論する。
  • 論文購読:論文を読んだ上で事前に(1)論文の問い、方法、結果は何か、(2)疑問点・質問を共有する。授業では共有された内容をもとに議論する。
  • 統計分析:事前に該当箇所を読んだうえで、書かれたコードを実際に自分で一通り実行する。事前に疑問点・質問を共有する。

前期末には後期に向けて利用可能な社会調査データを紹介し、研究計画を作成する。参加者の関心をもとに、3年生は3人程度のグループ、4年生は個人で、前期末に研究計画を作成・提出する。社会学、とくに不平等にかかわるテーマを期待するが、自由に決めて良い。ただし、既存社会調査の個票データを用いた統計分析を行うことは必須とする。

後期は論文執筆のための作業および経過報告からなる。作業は授業時間外にも実施し、授業時間中には作業の過程で生じた疑問点や悩みなどについて教員から助言するという形式で進める。毎週、進捗状況を報告することとする。中間報告の回では、報告者の事前の十分な準備はもちろん、参加者からも積極的なコメントが期待される。学期末には12,000–20,000字程度の長さの研究論文を執筆し提出する。

到達目標

  1. 社会学の視点から問いを設定し、仮説を立てられるようになる。

  2. 社会調査データの分析方法を身につける。

  3. 実証研究による報告論文(レポート)を書くことができる。

過去の購読文献など

2024年度

Putnam, Robert D. 2015. Our Kids: The American Dream in Crisis. Simon & Schuster.(柴内康文訳,2017,『われらの子ども:米国における機会格差の拡大』創元社.)

Goldin, Claudia. 2021. Career and Family: Women’s Century-Long Journey toward Equity. Princeton University Press.(鹿田昌美訳,2023,『なぜ男女の賃金に格差があるのか:女性の生き方の経済学』慶應義塾出版会.)

Llaudet, Elene and Kosuke Imai. 2022. Data Analysis for Social Science: A Friendly and Practical Introduction. Princeton University Press.

明石芳彦,2018,『社会科学系論文の書き方』ミネルヴァ書房.

森いづみ,2017,「国・私立中学への進学が進学期待と自己効力感に及ぼす影響」『教育社会学研究』101: 27–47.

古田和久,2018,「出身階層の資本構造と高校生の進路選択」『社会学評論』69(1):21–36.

麦山亮太・大里蒼一郎,2024,「地域の図書館普及が子どもの学習時間に与える影響とその階層差」『理論と方法』近刊.

吉武理大,2019,「貧困母子世帯における生活保護の受給の規定要因:なぜ貧困なのに生活保護を受給しないのか」『福祉社会学研究』16: 157–178.

百瀬由璃絵,2023,「埋もれたインターセクショナリティ:『障害者/健常者』の境界にいる女性」『日本労働研究雑誌』751: 148–63.

斉藤知洋,2023,「離婚に伴う女性の経済状況の変化:長期パネルデータを用いた再検討」『人口問題研究』79(1): 64–84.

吉田航,2024,「ダイバーシティ部署の設置は企業の女性管理職比率を高めるか?」『組織科学』近刊.

中山真緒・石川祐実,2023,「男性配偶者の業種別育児休業取得率が女性の就業確率,健康状態に与える影響」『日本労働研究雑誌』760:74–87.

2023年度

数理社会学会監修,筒井淳也・神林博史・長松奈美江・渡邉大輔・藤原翔編,2015,『計量社会学入門:社会をデータで読む』世界思想社.

豊永耕平,2023,『学歴獲得の不平等:親子の進路選択と社会階層』勁草書房.

Llaudet, Elene and Kosuke Imai. 2022. Data Analysis for Social Science: A Friendly and Practical Introduction. Princeton University Press.

吉田航,2022,「女性管理職は「変化の担い手」か「機械の歯車」か?:新卒女性の採用・定着に与える影響に着目して」『理論と方法』37(1): 18–33.

郭雲蔚,2019,「低水準の均衡:職場における非正規雇用の存在と労働者全体の処遇水準」『フォーラム現代社会学』18: 45–59.

吉武理大,2019,「離婚の世代間連鎖とそのメカニズム:格差の再生産の視点から」『社会学評論』70(1): 27–42.

柳下実,2022,「育児のための睡眠中断とジェンダー」『ソシオロジ』66(3): 3–19.

2022年度

明石芳彦,2018,『社会科学系論文の書き方』ミネルヴァ書房.

平沢和司,2021,『格差の社会学入門:学歴と階層から考える[第2版]』北海道大学出版会.

岩間暁子,2008,『女性の就業と家族のゆくえ:格差社会のなかの変容』東京大学出版会.

寺村絵理子編,2021,『日本・台湾の高学歴女性:極少子化と仕事・家族の比較』晃洋書房.

浅野正彦・矢内勇生,2018,『Rによる計量政治学入門:統計学で政治現象を分析する』オーム社.

2021年度

Watts, Duncan J. 2011. Everything is Obvious, Once You Know the Answer: Why Common Sense is Nonsense. Atlantic Books.(青木創訳,2014,『偶然の科学』早川書房.)

数理社会学会監修,筒井淳也・神林博史・長松奈美江・渡邉大輔・藤原翔編,2015,『計量社会学入門:社会をデータで読む』世界思想社.

浅野正彦・矢内勇生,2018,『Rによる計量政治学入門:統計学で政治現象を分析する』オーム社.

余田翔平,2012,「子ども期の家族構造と教育達成格差:二人親世帯/母子世帯/父子世帯の比較」『家族社会学研究』, 24(1), 60–71.

永吉希久子,2012,「日本人の排外意識に対する分断労働市場の影響」『社会学評論』63(1): 19–35.

川口章,2012,「昇進意欲の男女比較」『日本労働研究雑誌』54(2): 42–57.

裵智恵,2018,「同性愛に対する態度を規定する要因」小林大祐編『2015年SSM調査報告書9 意識II』 2015年SSM調査研究会,85–102.