変数を上位概念で捉え直す:先行研究の幅を広げ、理論につなぐ考え方の一例

Teaching
Author

Ryota Mugiyama

Published

May 3, 2026

はじめに:先行研究が「見つからない」のはなぜか

計量的実証研究のほとんどの問いは、「xとyはいかに関連するのか」というものである。このような視点で先行研究を探していくと、xとyの関係を直接扱った先行研究がないという悩みを抱えることがある。このようなときはたいてい、扱うべき先行研究を非常に狭く設定してしまっている。

では、どのようにして先行研究の幅を広げていけばよいのだろうか?そのための考え方の一つが、変数をどのような概念を測定したものと位置づけるか、という視点を持つことである。

なお、この文章は主に計量分析を用いた社会学的研究を行おうとしている、学部3〜4年〜大学院くらいの学生を念頭に置いている。これに当てはまらない人は適宜距離を置いて読んでほしい。

変数は概念を操作化したものである

社会学において、変数はそれ自体が最終的な目的ではなく、より抽象的な概念を測定するために操作化(operationalization)したものであることが多い。社会学にはさまざまな理論的概念がある。たとえば「階層(社会経済的地位)」「個人主義的価値観」「社会関係資本」といった具合である。これを実際に分析に用いるためには、具体的に測定可能な変数へと操作化することになる。たとえば「階層」であれば、伝統的には、職業、所得、学歴(さらに近年であれば資産)といった、複数の異なる変数によって測定されてきた。

この発想は逆方向にも使える。つまり、自分が扱う変数は、どのような上位概念を測定したものとして理解できるか、と考えることで、その上位概念レベルで共通する先行研究を参照できるようになる。

このような発想を取ることによって、自分の問いがどのような先行研究群のなかに位置づけられるか(どのような先行研究群に貢献するものであるのか)という研究の意義を広げることができる。さらに、関連する理論を見つけたり定めたりすることができる。こうした理論は、分析するうえでどのような他の要因(交絡要因)を考慮に入れるべきか、どのような予測ができるか、といったことを考えるうえで役に立つ。

具体例:職業と会話相手の数

たとえば、「就いている職業によって、ふだんよく会話する人の数はどの程度違うのか(職業(x)→会話する人の数(y))」という問いを立てたとする。ここでは簡単のため、この問いを直接扱った先行研究はないものとする。このようなときには、職業(x)と、ふだん会話する人の数(y)をそれぞれ上位概念に置き換えて考えることで、参照すべき研究群がみやすくなる。

まず、xとしている職業の概念化を考えてみよう。職業を階層を表す変数と捉えるならば、同様に階層を測定する変数として広く使われている学歴や所得との関連を分析した先行研究が参照できる。一方、職業をふだんの生活の場として捉えるならば、居住地域や趣味のサークル、ボランティア活動といった変数を用いて分析した研究が参照対象になるだろう。

yであるふだんよく会話する人の数についても同様である。これを社会的ネットワークの大きさとして捉えるならば、社会的ネットワークの規模を問題とした研究群、たとえば社会関係資本や、孤立に関する研究群などが当てはまるだろう。

概念化の方向が理論枠組みを定める

xとyをどのような概念を操作化したものだと考えるかによって、どのような因果関係が想定できるか、あるいはどのような理論がより参照できるか、が変わってくる。

たとえば、職業(x)を階層を測定する変数、ふだんよく会話する人の数(y)を社会的ネットワークの規模として捉えるならば、より高いSESを持つ人ほど、社会的資源としての人とのつながりを豊富に持ちやすい、といった、ネットワークを社会的資源の源泉と捉えるLin(2001)の社会関係資本論は相性が良い理論となるだろう。一方で、職業(x)をふだんの生活の場と考えるのであれば、ふだん人と接しやすい職業に就いている人ほどより会話も増えやすい、と想定する機会構造の理論(Blau 1977)のような理論枠組みが適しているだろう。

以上のように、着目する変数をどのような概念を測定したものと位置づけるのかによって、どのような研究を関連する先行研究群として参照できるか、予測や、統制すべき要因を考えるうえで、どのような理論を活用すべきかが見やすくなる。

概念化の方向に正解はなく、自分がどのようなことを測り、検証したいかという問題意識にもとづいて考えることができる(考えなければならない)。概念と変数の対応関係が複数の先行研究で同じように扱われているならば、ある概念を測定するうえで今用いている変数が適切だ、ということを説得的に言いやすくなる。一方で、そうではない場合には、なぜ先行研究とは違い、自分の測定のほうが(知りたいことにとって)より望ましいのか、を説明する必要がある。

ただし、上位概念の抽象度を上げすぎると、先行研究の幅が広くなりすぎたり、どのような分析が必要となってくるのかについての指針を得にくくなる。たとえば職業を「社会構造」と概念化したとする。社会構造というのは研究や論者によってかなり多様な使われ方をしており、その意味を捉えるのがむずかしい概念である。あいまいな概念だから悪いというわけではないが、少なくとも、実証的な研究を前に進めるうえではあまり役に立たないことが多い。したがって、適度に抽象化しつつも、過度に抽象化しすぎない程度の抽象化というのが必要となる。

まとめ

変数間の関連(x→y)に関する問いに関心を持ったが、それを直接扱った研究がないという場合に、その研究に関連する先行研究群を設定し、理論枠組みなどを見つけ、より意義の大きい研究に発展させるためには、次のように考えてみるとよい。

  1. 用いる変数がどのような概念を測定したものかを考える。言い換えると、「この変数を使うことによって、自分は何を測ろうとしているのか」を考える。
  2. 上位概念のレベルで類似している研究は、先行研究として参照しうる。
  3. 上位概念のレベルで関連する理論は、自分の研究にも使える理論枠組みとなりうる。
  4. 用いる変数が、ある概念の操作化(として適切)であることを説明できるようにする。

参考文献

Blau, Peter Michael. 1977. Inequality and Heterogeneity: A Primitive Theory of Social Structure. Free Press.

Lin, Nan. 2001. Social Capital: A Theory of Social Structure and Action. Cambridge University Press.